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車に乗ると「葉月、寄りたいところはないか?」と葉月に尋ねた。
「はい、大丈夫です」
俺は真っ直ぐ家に帰ることにした。
静かな車内。だが隣からちらりちらりと視線を感じていた。
彼女が言った“大人だ”という台詞を思い出す。
しかし、葉月の方を見れない。
「あの……」
「なんだ」
彼女の言葉に胸が僅かにドキリとした。
何かを期待していたのかもしれない。
「私も免許取りたいです……免許を取って運転したいです」
運転免許をとることはいいことだと思う。
世界が広がり、便利だ。
それをわかっていながらも俺は、「ダメだ」と言って、認めなかった。
すると彼女は違う意味で受けとる。
「そうですよね、すみません甘えてしまって私……」
「そうじゃない」
瞬時、否定した。
「え?」
「俺の母も祖母も運転免許は持ってない。運転手もいるし、俺も……いる。必要ない」
葉月が運転するなんて危ないだろう。
させたくないのが、本音だった。
「でもいつも送ってもらってばかりでは……」
「車は事故が多いんだ。お前は学業とフルートに励めばいい」
そう言ったものの、行動範囲を広げさせたくないという思いが強かった。
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