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何か嫌な記憶でもあるのだろうか。
彼女の心の曇りの原因を知りたくなる。
「すみません、記憶になくて……」
もしかすると、覚えていないことに罪悪感を感じているのかもしれない。
「当たり前だろう。随分昔だ。俺だってそんなにはっきりと覚えてるわけじゃない」
俺だって一つ一つを覚えているわけじゃない。
ただ、葉月とのことはよく覚えていたがそれは言えないことだ。
「すみません。父にも言われたんです。もっと愛想良くして顔を上げなさいと……私が言い付けを守っていたら、共哉さんに失礼なことを……」
彼女の父親はどれだけ彼女に威圧感を与えてきたのだろうか。
「何言ってんだよ」
あまりにも頼りない表情で、泣きそうにも見える彼女に手を伸ばしたのは自然なことだった。
「お前はいい子だよ、ほんと」
そう言って頭を撫でた。本当にそう思ったから。
「共哉さん……」
「じゅうぶんいい子だよ。こんなお前を俺の都合で結婚させて良かったのかと、罪悪感がわくくらいだ」
もっといい男が他にいるかもしれないと考える時間もあって、その度に譲ることなんて考えられないと苦しくなる。
「お前はいい子だ、大丈夫だ」
ズルい俺を受け入れてくれ懸命に妻であろうとする彼女が本当に好きだ。
「共哉、さん」
俺には勿体ないくらいの綺麗な心を持つ彼女は、涙を一つ溢した。
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