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それから二粒、三粒と涙が追いかけるように溢れるから、「葉月」と言って頭に置いた手をゆっくり退かした。
「すみません、な、泣いたりして」
悲しい時にまで俺に気を回す彼女に、胸が苦しくなる。
もっと、甘えればいい。甘やかしたい。
「お前は泣き虫だな、ほら来いよ」
俺は立ち上がり、座っている葉月の手を強引にも引いた。
その衝動で胸に彼女が入り込むのを、強く抱き締めた。
「葉月」
もっと甘えればいい。もっと……
「っふ、っ……」
彼女を少しでも支えることができたらいい。
「大丈夫だ」
「っ、ふぇ……」
「葉月……」
俺は彼女の背を擦り、涙を流す葉月を受け止めた。
きっと涙の理由は、父親に対する苦い思いと、彼女の姉を思い出した事だと推測する。
彼女は姉を慕っていたと聞いていた。
父親からのプレッシャーに、いなくなった姉に対しての寂しさ、いい子だけにそれらを我慢して生きてきたに違いない。
俺は葉月を抱き締めながら、一緒に住む前日に、彼女の母親が何度も頭を下げてきた事を思い出していた。
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