255人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
彼女は再び俺の胸に顔を埋めた。
それから強く抱き締める。
「ありがとうございます」
「あぁ」
少しは流せただろうか。彼女の寂しさや苦しさを少しでも散らせたのなら俺は嬉しい。
だから彼女がいいと言うまで抱き締めていようと思った。
「あ、あの……」
「ん?大丈夫か?」
「はい」
しばらくした後、彼女がゆっくりと俺から離れる。
胸の温度が急激に冷え、寂しいとも感じた。
「共哉さん、これ……」
泣き止んだ彼女が俺の胸に手を伸ばす。その手をゆっくりと退かした。
濡れた服を気にしているのだ。
「着替えればいいよ、お前は風呂に入ってくるか?」
「はい。あの……」
「ん?」
「ここ、冷たくなりましたよね。共哉さんのここ温かいタオルで拭いていいですか?」
彼女の意思は純粋なもの。
何も思惑がないとわかっていても胸が高鳴ってしまう。
「待ってて下さい。今タオル温めてきます」
何も言えない俺の側から彼女は離れる。
きっとタオルを取ってきて、温めようとするに違いない。
想像すると今の彼女に罪悪感を感じてしまい、葉月が来る前に着替えておこうと自分の部屋に入るのだ。
彼女が来るとは思わずに。
最初のコメントを投稿しよう!