271人が本棚に入れています
本棚に追加
「これも、食うか?」
「え、あっ……」
頼んだものはなかなかボリュームが多く、彼女は気持ちの問題もあってか全ては食べきれなかった。
それに申し訳なさそうに謝る彼女に、気にしなくていいと伝えてはまた謝られるという繰り返し。
それでもデザートが出てきた時は、顔を綻ばせた。
一枚のプレートに少しずつデザートが乗り、女が喜びそうな見た目をしていた。
彼女は口にどんどん運んでいく。
だから俺の物まで食べられるのなら、彼女にあげて喜んでもらいたかった。
「甘い物好きだろう?全て小さいから食えるんじゃないのか?」
「え、でも……共哉さんが……」
「俺はもう甘い物は食べられそうにない」
そう言うと、彼女は少しだけ笑った。
彼女と違い俺は完食していたからだ。
「そ、それなら……はい。ありがとうございます」
「あぁ、ほら」
「あっはい」
俺のプレートを彼女の方に差し出して、彼女の物と代える。
「ありがとうございます。いただきます」
「あぁ」
これで少しでも気が和らげばいい。
そう思いつつ、俺は珈琲を飲み、食べ始める彼女を観察していた。
「美味しいです」
「よかったな」
「はい」
いつもより元気のない笑みをみせる。
その表情を見て俺は彼女の側に寄り添いたくなる。
ほっておけないとはこういう感情だろうか、もっと近くで守りたくなる。
だからだろうか、食べ終えた葉月の手を強く握り、会社に戻る間ずっとそのままでいた。
最初のコメントを投稿しよう!