少しでも側に

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「ただいま葉月」 「お、おかえりなさい」 就業後、車をとばし帰宅した俺に葉月は顔を綻ばせた。 それだけで心が安らぐ。 「おかえりなさい坊っちゃん」 「あぁ、塔子さん悪かったな」 もし塔子さんが今いなかったらなら、抱き締めていたかもしれない。 それくらい、彼女を求めていた。 「いいえ、ちっとも悪い事なんてありませんよ」 「有り難い、明後日も頼む」 「えぇ、わかりました」 「宮前さん、ありがとうございました遅くまで……」 「いいんですよ、仕事ですから」 葉月と共に塔子さんを玄関まで見送る。 「本当にありがとうございました」 「いいえ、いいんですよ」 フルートを習い始めた事で、塔子さんに遅い時間までいてもらっているため、葉月は何度も礼をする。 葉月に笑顔を見せたまま塔子さんは帰っていった。 葉月と二人になり、ふとフルート講師の事が気になった。 「大丈夫だったか?」 「え?」 「お前と合いそうか?」 「あ、はい」 咄嗟に浮かんだ主語もない質問に、彼女は微笑む。 大丈夫そうだ。 「なら、いい。何かあれば言えよ。塔子さんにも毎回いてもらうから」 「すみません」 「謝るな」 再び恐縮させてしまったから、気にさせたくなく頭を撫でる。それに表情が戻り安心した。 「お風呂、入りますか?ご飯も宮前さんが作って下さったのですぐ用意出来ますよ?」 「そうだな、風呂入ってくる」 「わかりました」 こんな会話もいいなと改めて思えるのは彼女の気持ちを知ったからか、早く彼女との時間を持ちたく、風呂もすぐ上がる俺だった。
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