263人が本棚に入れています
本棚に追加
それでも時間は刻々と過ぎていく。
そろそろ起きなければまた塔子さんがノックしてくるに違いない時間だ。
「葉月、俺はそろそろ起きるな」
「あっ、はい」
そう言うと、少しだけ彼女が寂しそうな表情になった気がして、目尻にキスを落とした。
ベッドを抜け出す際、目に入ってきたシーツの赤い痕。
彼女の痛みを表したもの。
「葉月、塔子さんには部屋に入らないよう伝えておくから、楽にしとけ」
きっと彼女も後で気がつくだろう。
塔子さんが見たらどうしようと悩むに違いないから、そう伝える。
帰ってきて俺が洗濯すればいい。
葉月がそれを密かに取り替える事とは知らず、掛け布団を彼女にかけた。
「あっ、はい」
ベッドに彼女を置いたまま、脱ぎ捨てた服を着て俺は一度部屋を出た。
朝食を準備してくれている塔子さんと目が合い、朝の挨拶をすると、「おはようございます坊っちゃん。葉月さんはまだお休みですか?」と尋ねられた。
「あぁ。今日はゆっくり出る様だからまだ寝かせてあげて欲しい」
「そうですか、わかりました」
塔子さんは一人分の朝食を準備し始める。
俺は塔子さんに、俺は部屋の掃除を今日はしないよう頼み、朝食を食べ普段通り支度をする。
察しのいい塔子さんのこと。俺達の関係が変わったことに気付いただろう。
スーツを着る為再び部屋に戻ると、彼女はそのままの体勢で横になっていた。
「大丈夫か?」
ベッドに近付き顔を覗く。
「はい……。すみません寝たままで」
申し訳なさそうにする葉月のこめかみにキスをした。
「そんな事気にするな」
彼女の頭を撫でる。
それからスーツに着替えるのだが、着替える俺を見ないよう彼女が後ろを向くから、思わず気付かれぬよう笑ってしまった。
互いに素肌をさらしたのに、今恥ずかしがるのが可愛くて。
最初のコメントを投稿しよう!