重ねる時と

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「大丈夫か?」 「え?」 「身体」 唐突な質問に、彼女が小さく頷いた。 「はい」 顔が赤らんだのは見逃さない。 すぐに首元に目を向けた俺は違和感に気づく。 「あの、共哉さん。まだご飯の準備できてなくて……今から用意しますね」 俺から視線を逸らしたのは恥ずかしいからだろう。 だが、「葉月」と呼んだ。 「はい」 俺は葉月に寄って、首に手を伸ばした。 そして、指で拭う。 痛みを感じたのか表情が歪む。 でも構えない。 「これ、どうしたんだ?」 指に付いたのはベージュの粉だった。 「え?」 首には俺が付けた痕があった。 彼女の身体にいくつも付けた痕の一つ。 見える場所に付けた唯一のもので、朝、密かに確認して満足したものだった。 「何で隠した?」 それが綺麗に隠れていて、問いただしてしまう。 「あ、これは目立って恥ずかしくて……そうしたら友人が隠してくれたんです」 初めて化粧をしてきた日にも思ったが、余計な事をする友人に苛立つ。 「この化粧もその友達か?」 「はい」 一昨日見たときより、華やかに感じる葉月の顔はメイクをしているからだろう。 「朝から?」 「はい」 他の男に見せていたのかと思うと、どうしようもなく苛立ち深くため息を吐いて抑えようとするも無理だ。 「と、共哉さん?」 彼女を抱き締めてしまった。
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