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仕事を早く切り上げさせたのでは、とか、チケットを無駄にさせたのでは、とか、頭に申し訳ない感情が浮かぶ。
それでも時間が経っても私の体温は下がらず、完全に熱風邪をひいたようだった。
本当ならいない宮前さんにも迷惑をかけて、こんな日に最悪だ、なんて思っていると、気分まで悪くなる。
お腹が空いていなくても、何かを入れるべきと言う宮前さんに言われ、彼女が作った卵がゆを少しだけ食べて、横になり布団をゴロゴロと落ち着かなく動いていると、部屋の向こうで彼の声がした。
生の彼の声。
胸が弾むも、この状況に素直に喜べず、どうしようか、と瞬時に布団に顔を潜らせた。
「葉月!」
慌てたような彼の声がし、せっかく隠れたのに反射で布団を下げた。
「大丈夫か?熱、高いんだってな」
おかえりなさいという間もなく、彼の手が額に触れる。
冷たい……
「悪い、冷たいな……」
「いえ、気持ちいいです」
その温度はいつもの彼のもので、今の私には気持ちがよい。
「そうか、痛いところはないのか?」
「はい」
「そうか、どうしたかな……」
少し会わなかった彼は、見送りをした時と同じでピシリとしてる。
なのに私は、寝たままの部屋着のまま。
なんだか急に恥ずかしくなって、逃げることもできないのに瞳を強く閉じる。
「どうした?きついか?」
それを彼は私がきついととったよう。
瞳を開け、代わりに鼻まで布団を被る。
「共哉さん、私、ごめんなさい。こんな格好で……」
「ん?」
「共哉さんをもっとちゃんとお迎えしたかったです」
そう言うと、伝わったのか彼は息を吐いた。
「そんなこと、考えるなよ」
「でも……」
「きついんだろ?無理される方が困るよ」
「でも、私……ちゃんとおかえりなさい言いたかった」
身体がだるいせいなのか、なんだか私子供みたい。
すると私に彼が顔を寄せた。
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