思わぬコト

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彼の携帯が着信を知らせる。 彼は画面を見つめ、それには出ず私に「葉月、前にパーティで会った俺の友人の医師覚えてるか?」と言った。 「え?」 彼の友人に会ったのは、ぼんやりと覚えている。 だが他の思い出が強烈で、名前も顔も的確に思い出せない。 言葉に詰まる私から悟ったのか、よしよしという風に私の頭を手で滑らせつつ彼が「いいよ、思い出さなくても。そいつに頼んだんだ」と言った。 「あ、ありがとうございます」 「診たらすぐに帰ってもらうから、いいな?」 「はい」 どんな人だっただろう。   そう考え始めてすぐ、彼は鳴り止んだ携帯を持ちながら部屋を出ていくが、すぐに一人の男性を連れて戻ってきた。 共哉さんよりだいぶ背の低い眼鏡をかけた男性とは、二度目ましてのはずだけど、正直あまり記憶にない。 「奥さん、先日はどうも。熱が高いみたいですね、大丈夫ですか?」 「あっ、はい」 そう答えるも、ちょっと不安で共哉さんを見つめた。 すると彼はすぐ近くに来て、耳元で囁くのだ。 「友人の宮内だ。お前の様子は知らせてあるから少しだけだ、診てもらうぞ」 「はい」 彼にそう言われると落ち着く。 「宮内さん、宜しくお願いします」 だから今度は、彼の友人に視線を向けて頭を下げることができた。
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