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本来なら彼の友人だから、妻としてはお茶くらい出すべきなのだが、今の体調でそれはできず、ベッドから宮内さんを見送った。
「何の御構いもできませんで……」
「病人なんですから、そんなのいいですよ。ゆっくり休んで下さいね」
「隆、ありがとな」
「いいよ、また奥さんが元気になったらお邪魔させてよ」
「あぁ」
「じゃあお大事に奥さん、また」
診察代も受け取らず、わざわざ来てくれる親切な人。
彼はいい友人に恵まれているよう。
「大丈夫か?」
「はい。共哉さんありがとうございました。呼んでくださって」
「いいよ。早く薬出してもらった方が安心だろ」
「はい」
薬と聞き再び、妊娠のことを思い出す。
彼はどういう気でいるのだろう。
そうなってもいいということだろうか。
「顔が赤いな、やっぱり熱があるんだな」
彼は額に手を置いて言うが、私の今の熱さはそれだけではない。
「薬を飲んで冷えないうちにまた寝た方がいい」
「はい」
彼が薬と水を用意してくれ、私はそれを飲むのだけど、たまらず「にがっ…」と言ってしまった。
慣れない苦さに顔が歪む。
「苦いか?」
彼が苦笑する。
私は、うんうんと頭を上下に動かしてしまう。
子供だと思われるかもしれないけど、苦い。
「ゼリー食うか?」
それにまた頷くと、個包装タイプの小さなゼリーを口元に差し出された。
食べさせてくれる気だ。
私は早く甘みが欲しく口を開ける。
「ありがとうございます」
「いいよ」
飲み込んで礼をすると、彼がゼリーを持っていた指を舐めた。
なんだかそれが色っぽくて慌てて目を逸らしてしまった。
なぜそう感じたのかは、わからないけれど。
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