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「でも……」
「ん?」
「私、やっぱりずっと気にしてしまうと思うんです」
彼の言う通りにすればうまく今は収まるだろうが、きっとまたどこかで似たような悩みにあたる気がする。
彼に甘えることは簡単だ。
しかし、私も何か返せたらと姉の言葉をきっかけに芽生えた気持ちがあった。
それが今はお金を返すことだけど、もっと違うものもあるのだろうかはわからない。
「気にしなくていいと言ってもか?」
「は、い……」
それでも私は頷いてみせた。
「そう」
私から目を逸らした彼は「どうするかな……」と小さく独り言を言った。
その彼を変わらず見つめると、再び視線が絡む。
初めは強かったそれは、徐々に優しく変化する。
優しくなった彼の瞳の色は好きだ。
「もうこの話は今日はおしまいにしよう。
まだお前の父親とも話できてないしな」
「は、い」
彼は私が頷くのを確認すると「葉月」と優しく呼んだ。
それから彼の胸に閉じ込められる。
そのまま頭の上を彼の顔が撫でるように動くのが伝わり、くすぐったい。
彼の唇が私の髪や頭の上の方を食むのがわかり、より身が震えた。
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