252人が本棚に入れています
本棚に追加
私は彼にプロポーズをされた翌日、母に会いに行った。
母に相談してみたいと思ったし、姉のことも聞きたかったからだ。
実家を訪ねると、母は驚いたものの快く入れてくれた。
実家をとても久し振りに感じて懐かしくなる。
好きじゃなかったこの家に、自らこうして帰って来られたことは、彼のおかげに違いない。
「素敵な指輪ね」
「あっ、うん」
母は私の指輪にいち早く気付き、まじまじと見てくる。
「これは月?」
「えぇ」
「そう。葉月の月なのね」
「はい。共哉さんと選んだの」
「そう、良かったわね」
母は小さくそう言うと、優しく微笑んだ。
「あの方は葉月をよく想って下さってるのね。
実はね、ここに来たことがあるのよ」
「え、共哉さんが?」
「そうよ。葉月が嫁ぐ時挨拶に来られたの」
知らなかった事実に驚く。
「わざわざ、一人で?」
「えぇ、そうよ」
あんなに初め冷たくしていたのに、知らないところで私のために動いてくれていたんだと思うと感激した。
その時も心は私にあったのだろうか。
初めから好きだと言ってくれたから……
私は昨夜を思いだし、赤くなった。
だが、どうして初めあんなに冷たかったのだろう。
そこは尋ねておらず、いまだに疑問のままだ。
ただ、今やっと本心を知れたからわざわざ聞いて空気を悪くしたくない。
きっとずっと触れないままだと思う。
ここに来てくれていたことも黙っておこうと心に決めた。
「ねぇお母様」
「なぁに?」
「お母様はお見合い結婚だったのよね?」
いきなりかもしれないが、母に聞いてみたかった。
「そうよ、どうしたの?急に……」
「お母様は働いた経験はあるの?」
両親はお見合い結婚だったと聞いていた。
その理由までは知らないが、昔ならあり得ると深く考えたこともなかった。
だが今考えてみると、私と母の環境は似ていて話をしてみたくなったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!