二度目の意味

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「葉月は働きたいの?」 母から帰ってきたのはまず疑問だった。 その問いに私は頷く。 「働いた方がいいと思っていて……」 「働いた方がいいというのはどういうことなの?」 母は驚く様子もなく、ただ優しく問いかけた。 「私、共哉さんにお金を返せたらと思ってるの」 「お金?」 「はい。寿が立て替えてもらったお金を、寿で働いて返したくて。 私今、大学へ通わせてもらうだけで何もできていないから、辞めて働けたらと思ってるの」 「そう」 母はそれでも驚くことなく、頷いた。 「共哉さんに私もなにかしたいの。 思い付いたのが働くことだった……」 すると母はそれに対して口を開く。 「それは蓮池さんは知ってるの?」 「はい」 「そう。 反対したでしょう?」 「どうして……」 どうしてわかるのだろうかと母を見つめる。 それに母は穏やかに笑う。 「葉月と同じよ。昔そう考えた時期があったの」 「え」 「理由は違うけれど、家にいるばかりでいいのかしらと悩んで、一緒にお店で働きたいとお願いしたの」 「それでお父様は……」 「お父様には大反対されたわ。 簡単なことじゃないって叱られちゃった」 母は懐かしそう口元を緩め言った。 「弥生がそれからすぐにできて、その思いは消えたけれど。 ただ今考えてみても、無謀だったことはわかるの」 「無謀?」 「えぇ。どんなに大変かお父様を見ていてよくわかったから。 朝早くにはここを出て、夜はお店に泊まって帰ってこられない日もあったでしょう?」 確かに父はここにあまり帰ってこなかった。 「せめて帰ってくる時間は、穏やかでいるのが私の仕事だと思い始めたの。 お父様、疲れて苛々しがちだったから」 そういう目で母が父を見ていたことに驚いた。 ただ父に気を遣ってびくびくしていただけかと思っていたから。 「葉月が本当にやりたいなら、私は反対しないわ」 「お母様……」 「葉月がなにを大切にしたいかよく考えたらいいわ。 葉月は葉月なんだから。葉月は弥生じゃないのよ」 「え」
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