二度目の意味

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「そんな顔するなよ」 彼の手が私の手を離して、今度は頬を優しくつねった。 「あっ……」 不安は私の表情を強張らせていたようだ。 彼を観察している場合ではない。 「すみません」 「いや」 私が謝ると、彼の表情は穏やかなものに変わった。 だが、なにを言われるかわからない分、不安は消えない。 彼はつねっていた手を離す。 それからスーツの胸ポケットに手を入れて小さな箱を取り出すと、私に微笑んだ。 「え……」 私でもわかるその箱の中身は、一つしか思い付かない。 購入してしばらく経つが二人で選んだ物が頭に浮かんだ。 もしかしてと思う想像は、この場所と彼の表情で間違いないと思える。 「共哉さん……」 「初めはずっと早く着けさせたいとばかり思っていたんだ」 確かに彼はあの時、随分急いていた。 「だが、受け取った時に一生に一度しかないことだと再思して、どう渡そうかと考えてた」 彼はしばらく持っていたというのか…… 私は彼から目が離せない。 「色々調べたが何がいいのか迷うだけで、なかなか渡せなかったよ。 結局焦って、ベタな場所になってしまったが……」 私が幼い思考に捕らわれている間、彼はそんなことを考えていてくれていたんだと知る。 「共哉さん……」 「葉月」 彼が私の名を読んで、一度息を吐く。 それから手にある小箱を開ける。 中には想像通りのものが収まっていて、目に入れた瞬間泣きそうになった。 「葉月、これからはもっと大切にする。 一緒にいて欲しい」 それは彼からのプロポーズ。 告げられることのないままだと、期待すらしたことがなかったもの。 「いいよな」 彼が優しく尋ねるのに、私は無言で頷く。 すると左手を取られ、薬指に着けられた。 左指の重さに現実味が増した。 「ありがとう」 それに私はやっぱり泣いてしまった。
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