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父の言葉は更に私の胸を刺激した。
頬に涙がつたって私の手に落ちた後すぐ彼の方に流れる。
濡らしてしまったことが気になり慌てて隣に顔を向けると、彼が目を細めてこちらを見た。
その表情は不快に思うようなものではなく、私は安心した。
涙で気持ち悪いはずなのに、それでも固く結んでくれる手に落ち着かされる。
「弥生。あなたが葉月の幸せを願っているのは十分に伝わっているわ。
今の葉月なら大丈夫よ。
ね、一緒に見守ってあげましょうよ」
私が次に母に視線を向けた瞬間、姉が両手で顔を覆い「わっ」と声をあげた。
それから喉を詰まらすように泣き始めたのだ。
よく父と喧嘩になって泣きながら口論することはあったものの、こんな泣き方をする姉は見たことがなかった。
「大丈夫よ、弥生」
母はその姉の背を抱き込んで撫でるのを、私は見つめた。
「弥生、ごめんな」
姉の泣く声に父の声が混ざる。
それが届いたのか、より息を引きつかせて姉は泣いた。
きっと様々な思いを巡らせているに違いないけど、姉の涙には父とのしこりが解けていく安堵感も混じっているはずだ。
固かった空気が、ほんの少し和らいでいくそんな気がした。
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