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実家にいたころの私は父を怒らせぬよう意識していた。
従順に応じて、極力もめ事を避けることが日課だった。
「初めはお父様の勧めのままに結婚したのは確か……」
私の発言に皆の目が集まるのがわかる。
それが緊張を引き出すけれど、それでも続けた。
「でも私……。
今はお父様に別離を勧められても嫌と言うよ。
弥生姉、私は共哉さんと夫婦でいたい。
お願い弥生姉、私たちのこと受け入れがたいとは思うけれど認めて欲しい……」
手が震えているのに伝えた後気が付く。
「そうしてくれるなら……。
すごく嬉しい」
私は彼が握ってくれる手の上に、空いている手を重ねて力を入れた。
「私からもお願いします。
葉月を思って下さるのなら、認めて頂きたい」
「共哉さん……」
「弥生。
葉月の幸せは葉月が決めるのよ。
葉月を思うなら見守ってあげましょうよ」
私の切願に彼と母も重ねた。
するとしばらく間が空いて、父が口を開く。
「弥生。
葉月を嫁がせたのは私が不甲斐ないせいだ。
弥生の言う通り普通の恋愛をさせてあげられたらどんなにいいと思ったか……
弥生の気持ちはわかる。葉月には本当に申し訳なかったと思ってるよ」
その声も表情もとても頼りないもので、私は目が離せなくなった。
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