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「だからせめて葉月が好感を持てる相手がいいと共哉君をと思ったが……。
見合いが決まった時は本当は申し訳なくて顔を合わせるのも辛かった」
私は父が婚約者が決まったと伝えた時の様子を思い返した。
あの時は驚きとショックで完璧には思い出せなかったが、父は素っ気なかったように思う。
それが辛かったからとはあの日は絶対に捉えられなかった。
「じゃあどうして……」
「借金がどうにもできなかった。
破産することも考えたよ。
だがそれは皆に苦労をかけることだから、どうしても避けたかった」
父の言葉に胸が苦しくなってくる。
私は片方の手を胸に当て、息を吐き出した。
「共哉君と婚約すれば葉月を大学にやることもできるし、家もなくならない。
母さんも葉月も変わらない生活ができると思った」
「あなた……」
まさか彼との縁談を結びつけた父の気持ちの中に、大学進学のことまで考えてくれていたとは思わなかった。
私は自分が恥ずかしくなる。
簡単に学校を辞めると言ったり、寿で働くと言ったり自分のことしか考えてなかったことがとても恥ずかしかった。
「だが実際結婚して葉月がいなくなると、なにが幸せだったのかわからなくなったよ」
父の顔が大きく歪む。泣いたところは見たことがないが、それに近い表情だった。
「葉月が今葉月の意思で共哉君と別れたくないと聞けて安心した。
弥生、一緒に葉月を見守ってくれないか。
父さんを許さなくてもいいから、葉月の味方でいて欲しい」
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