解ける時間

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「お義父さん、止めて下さい」 「いや、本当に申し訳なく思ってる。 それ以上に有り難くとも……。 葉月を……」 父は一体どうしてしまったのだろう。 この間から様子がおかしい。 母が父の側に寄って背を支える姿を見て、私は驚き固まったままでいる。 「葉月を大切にしてくれて、共哉君には感謝するばかりだ」 私は父に愛されていたのだろうか。 私の為に頭を下げるような父なんて知らない。 お見合いの時、彼に気に入られるよう強要した父とは別人にみえる。 昔から怖い人と認識してきた父に愛された記憶はないに等しい。 しかし、目の前にいる父はどうだろう。 「いえ、私こそ彼女との縁談を頂けたことに感謝しています」 私の脳が混乱しているというのに、彼の言葉は更にそれを手伝う。 「共哉君……。 きみにお願いしてよかった。 どうしても私だけの力じゃ立て直せなくて、葉月を嫁がせるしかなかった。 それでも共哉君を選んだことは間違いじゃなかったよ」 「そんなことは……」 「いや、きみは見た目もいいし頭もいい。 娘を嫁がせるなら、少しでも条件のいい人がと思うのが親心だ……。 今の葉月を見ていたら尚更そう思うよ」 父は、ただ単に寿を立て直すためにお金持ちなら誰でもいいと思っていたわけではなかったようで驚く。 親心という単語にもそうだが、父が私を理解しているような表現をしたのにびっくりした。 「いえ……。 そんなにできた人間ではありませんが、これからも彼女の夫として、葉月共々お付き合いさせて下さい」 次の瞬間、私の瞳から涙が溢れた。 それに彼はすぐに気が付いて、私を更に抱き寄せる。 涙の理由は彼なのか父なのか、明確ではないがどちらもだろう。 「私の台詞だよ。ありがとう」 父は本当に別人のようだ。 そうさせたのは彼の力が大きいだろう。
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