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「大丈夫か?」
彼が穏やかな瞳を覗かせて優しく尋ねるのに、私は頷いた。
両親に「また来なさい」と温かく見送られ、自宅に帰ってきたが、まだ気が落ち着かない。
父の言葉や表情が頭に何度も浮かんでくる。
怖かった父からの私を思う言葉は、私の胸を大きく揺らしたままだ。
「共哉さん、私、今日行ってよかったです」
「そうだな……」
リビングのソファに座りながら彼にくっつきつつ私は、その腕にしがみついた。
「ありがとうございました」
「俺はなにもしてないよ」
「そんなこと、ないです」
彼がいてくれたから、父の心の奥に触れることができた。
私だけでは近付けなかったことである。
「弥生が尋ねてきたのが、お義父さんにとって大きかったんじゃないか」
「え?」
私は少しだけ離れて、彼を見つめる。
「弥生が戻ってきて、思うことがあったんだろう」
「弥生姉ですか?」
「あぁ」
結局私は姉の詳しいことは聞かずじまいで帰ってきた。
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