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私はそれを見つめたままでいると、彼の手が頭に乗った。
「ずっと早く帰れなくてごめんな。
最近は特に遅くて、寂しい思いさせてるよな」
「え、そんな……」
「旅行の約束もまだ果たせてない……」
旅行の提案をされたことは嬉しかったものの、忙しい彼に気にしてほしくない。
「もう少し先になりそうだ」
私は視線の先を彼に変えて、大きく首を振った。
「私の父のことで、共哉さんを忙しくさせてしまってますから、そんな全然……」
逆に私のほうが申し訳ない。彼がよく「大丈夫」と、口にするのを気にする一方で甘えていた。
「共哉さんにはいっぱい感謝してます。
旅行のことは気にしないで下さい。いつでもいけますし」
「葉月……」
「それに旅行にいけるくらいの時間ができたら、共哉さんの身体を休めてほしいです。
最近あまり寝てないですよね?」
彼が寝付くところを長く見ていない。身体を壊すんじゃないかと不安ではある。
旅行にいくより休む時間を摂るほうがいいと思うのが本音だった。
「大丈夫」
「大丈夫ばっかりです、共哉さん。
あまり無理しないで下さいね。何かあったら私悲しい……」
「大丈夫、あぁ、違うな……わかった」
彼が僅かに口の端を上げて、私を安心させるように乗せたままの手で撫でた。
「共哉さんからこの子を頂きましたから、私は大丈夫ですよ」
彼はそれに優しく「あぁ」と、言って、私に微笑む。
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