朔月

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私たちは帰宅後すぐに寝室へ行きベッドにいたので、彼とその上に寝そべる今、カーテンも開けっぱなしだ。 今は何時だろう…… 窓の外はすっかり暗い。 ベッドは窓辺に寄せてあるので、カーテンを全開している今、空の様子がよくわかる。 だが、今夜は月がよく見えない。 月の姿を探すのは私の趣味のようなものである。 共哉さんもそれを知っていて、私と夜空をよく見上げてくれる。 私は彼の素肌の胸に顔を寄せながら、「共哉さん、今夜は月がいないですね……」と、言った。 自分の声が少し掠れている。それは彼のせい。 しかし、それを責めるつもりは少しもない。 「たしか今夜は新月じゃなかったか?」 「……そっか……」 それで月が見えないのかと、私は納得して小さく呟く。 「そういえば新月のときは出産率が増えると聞いたことがあるな」 「……そうなんですか?」 「本当かわからないけど……」 彼が小さく笑いながら、私の髪に触れ優しくとかす。 「そうなんですか……。私は新月の日に願い事をすると叶うって聞いたことがあります」 「へぇ、それははじめて知った」 「もし願い事があるならお祈りしたらいいですよ」 彼に願い事があるとは思えないが、私は言った。 私はこのまま彼とずっと仲良しでいられますようにと、密かに願う。 なんとなく叶いそうな気がするのは、今彼が隣にいるから。 すると、彼が「なぁ」と、私をとても近い距離から見下ろした。 「はい」 私は視線を彼に向けて、ゆっくり瞳を瞬かせた。
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