新しい予感

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彼女と過ごす休みの日はあっという間に過ぎていく。 年を重ねる度に毎日が早く感じるが、彼女との時間は尚だ。 「ありがとうございました、疲れてませんか?」 「大丈夫。葉月は?」 「私は乗ってただけなので」 「それならいい」 帰りの道もスムーズには進まなくて、彼女は俺を気遣ってばかりいた。 何度「大丈夫ですか」と、聞かれたかわからない。 性格なのだろうが、気遣い過ぎて彼女が疲れないか心配するほどだ。 「共哉さん、半分持ちます」 「大丈夫、全然重たくないから」 「でも……」 「ほら、いくぞ」 「はい」 俺は荷物を片手に持ち、空いたほうで彼女の手を引いた。 困った顔をみせる彼女をそのままに、マンションの中に入る。 少し疲れはあるものの、彼女とゆっくりできると思うと、それを考えるだけで癒される。 「あっ、葉月ちゃん」 「こ、こんにちは」 しかし、またしても会いたくない男に会ってしまった。 一度じゃなくて二度も遭遇してしまった俺は運が悪い。 それでも「こんにちは」と、俺も声をかけた。 「今帰りですか?」 俺は見ればわかるだろうと「はい」と、小さく答える。 するとそこに彼女の教え子がエレベーターの中から降りてきた。 これは長くなりそうだと密かにため息を吐く。 「あれ、葉月ちゃん」 「理子ちゃんこんにちは」 「こんにちは、まだ帰ってなかったの?」 彼女の教え子は不思議そうに俺たちを見て、それから俺に慌てて「こんにちは」と、挨拶をした。 「こんにちは」 「理子ちゃんどうかしたの?」 彼女は俺の手をそっと外すと、教え子の前に立った。教え子は彼女より背が高いから、見上げる形だ。 「私もお兄ちゃんと桜の下を歩いたんだけど、葉月ちゃんたちどこにいた?」 朝会ったとき言っていたことを実行していたと知り、俺は大きく胸を撫で下ろした。
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