0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
また、視線を感じた。
この本棚の前を通るといつも感じる誰かからの視線。
それはこの本屋に私が勤め始めた時からずっとだった。
誰かに相談しようと思ったりもしたけれど、怖い話が苦手な人ばかりなので、なかなか相談もできずにいた。
その本棚はお店の一番奥にあり、返本前になった古い商品を置いておく棚だった。
中には返本さえ忘れられたような、年代ものの本も混ざっている。
視線は本と本の間から感じられた。
私はチラリとその本棚へ視線を向けると、足早にその場を通り過ぎた。
「えぇ、ここのお店潰れちゃうんですか!?」
事務所へ入った瞬間、先輩のそんな声が聞こえてきて私は立ち止まった。
事務所には先輩と店長の姿があり、店長は難しそうな顔をしている。
「あぁ。最近売り上げが良くなくてな……」
「そんなぁ!」
「君たちにはちゃんと再就職先を斡旋するから」
それから1か月後。
閉店が決まった後は早いもので、商品はどんどん棚から撤去され、閉店当日を迎えていた。
今日を最後にこの店はなくなる。
そう思うと、自然とあの棚のことが気になった。
あの棚の商品も今日が終れば空になる。
怖い気もするけれど、長年の気がかりが晴れる時でもあった。
「あ~あ、終わっちゃったね」
「そうですね」
閉店後、寂しそうな顔をする先輩に、私は短く返事をした
勤め馴れた場所がなくなるのは寂しい。
けれど、それよりも棚の奥の事が気になった。
「先輩、ちょっと気になる事があるので行ってきます」
私はそう言うと、エプロンを脱いで足早にあの棚へと向かった。
本が沢山並んでいたあの棚も、今ではスカスカになっている。
近づけば近づくほど、心臓は鋼をうち始めていた。
本当に行くの?
本当に確認するの?
心の中でそんな声が聞こえて来る。
弱気になりそうな心を奮い立たせて棚の前に立つと……。
棚の奥には真っ黒な人型のシミができていたのだった……。
数か月後。
解体された店内から、壁の中に練り込まれた男性の死体が発見された。
最初のコメントを投稿しよう!