標本

5/6
前へ
/6ページ
次へ
 私はこれらのことを頭の中に入れて、ある結論に辿り着いた。それは彼が始めた標本は生きたまま標本にする事だということだ。その結論に辿り着いた時、私は絶望した……このまま一生標本として生きていくことに……  それから一週間後。私は標本の中に生きている。彼は時々やってきて満面の笑みを浮かべて私を見る。最初はむかついたが今では嬉しく思う。標本は誰にも見られないと寂しいのだ……  そして、私はあることに気付いた。それはもう私は死んでいるということだ。どんなに時間が経とうとも意識を失わず、かつ昆虫達も常に休まることなく動き続け、どんなに身体を動かしても疲れない……私は魂を仕留めされたのだ。死んだ自分の体に……  その証拠にこの標本の中は真空になっている。おそらく彼が標本に成功したかを確認するためにそうしているのだろう。  
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加