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ぐるり、と世界が廻る。
オレンジ色に染まり始めた空に舞う、赤い赤い血液。
ああ、私にもこんなに温かいものが流れていたんだな、と動かない頭で考える。
視界の端に、唖然とする子どもが見えた。
ことの発端はどこにでもありそうなことだった。
小さな男の子がボールを追いかけて路上に出てしまって、そこにトラックがやってきた。
それを見て、いつの間にか体が動いて、子どもを突き飛ばしていた。
そして、私はトラックと衝突したのだった。
どうしようもない私でも、人を守ることができるんだ。
青ざめる子どもを安心させるように笑う。
幼い頃に両親を亡くし、厄介者として親戚中をたらい回しにされ続けてきた。
学校でも特に仲の良い友だちはいないし、勉強も運動も普通程度にしかできない。
いらない、いらない、と言われ続けて、自分のことを大切に思えなくなって。
自分の存在意義も分からなくなってしまった。
けれど、死ぬ間際にこうやって人の役に立てるなんて、思ってもみなかった。
嬉しいなあ。
自由の利かないからだが硬いコンクリートに叩きつけられる。
鈍い痛覚が痛みを伝えてくる。
まわりが血の海状態になっているのが分かった。
次第に視界が霞んでいく。
周りの喧騒も遠のいてゆく。
意識が途切れる瞬間、私の耳に誰かの声が聞こえたような気がした。
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