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いつもは静かなはずの森に、似合わぬ怒号が響く。
「おい!はやく捕まえろ!」
「銀色の人狼だ!こいつぁ高く売れるぜ!」
下卑た声を荒げながらこちらに矢を射る人間たち。
そいつらから逃げるために走る、走る。
魔界から人間界に転移する際の、転移場所の指定を甘くしてしまい、少し開けた場所に転移してしまい、人間に見つかってしまった。
腐ってもフェンリルの長である俺にとって、追いかけてきている奴らを一掃するのは簡単なことだ。
しかし、それではアイツとの約束を守れない。
あの約束は、俺たちの命よりも重いものだ。
なんせ、この約束を守り通して、アイツを口説き落とせたら、俺たち魔族の念願が達成されるのだから。
けれど、こうやって逃げ続けてどれだけ経ったんだろうか。
最初に負わされた足の傷から始まり、少しずつ増えていく傷に思わず舌打ちしてしまう。
大分走り回ったせいか、傷は一段と酷くなっていた。
ああ、アザリエーナのやつに怒られちまう。
大声で怒鳴り散らしながらも傷を治してくれる、ヴァンパイアの友人を思い出す。
奴らを撒けるほどの速度を出せればいいのだが、如何せん傷が傷なだけに無理がある。
ともかく、相手が諦めるまで粘るしかない、と思ったとき、ふっと視界が開けた。
少しだけ開けた空間の中央に、一本の木が堂々とした姿で仁王立ちしていて、その足元で衰弱しきった小さな人の子が薄目でこちらを見やっていた。
綺麗にすれば輝くであろう子の髪は白に近い金色で、こちらをみやる瞳は翡翠を溶かしたかのよう。
なんで、こんなところに人の子が・・・。
痛々しい姿に、自分の状況を忘れて思わず近付く。
抱き上げると、思っていた以上の軽さと衰弱具合に、人の子の首ががくりと揺れた。
掴んだ腕の細さに絶句する。
人の子は、こんなに弱く生まれてしまうのか。
ある意味哀れに思って、人の子を見る。
すると突然、人の子の掌が俺の頬に触れる。
その瞬間、眩いほどの閃光が目の前を覆いつくす。
何が起こったか分からず、唖然としたまま立ち尽くしていると、次第に光は消えてゆき、先程と同じ場所に戻った。
鳥のさえずりが、生き物の気配が戻ってくる。
そして、俺は自分の状態の変化に気付いた。
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