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この一杯のミルクが世界を救った
「なんだそれ?」
「…そう考えて日々を過ごした方が楽しいだろう?
我々は日々の暮らしの中で自然と抑圧されている。その中で自分たちにとって満足できる妥協点を探していると言っていい。これは意識せずに行われていることだ、何も恥ずかしい事ではない。」
やたらと偉そうに口舌するこの男は一期(いちご)という。ある日休憩室に入ってきたかと思えば徐ろに冷蔵庫の扉を開いて牛乳をコップに注いで飲み干した後、声高らかに意味のわからない事を語り出したというわけだ。
「そもそも、我々は将来を約束されてはいないだろう?なぜならば未来は無限の可能性があり、いつ、どこで、ふと私がサッカー選手を目指して超能力に目覚め、地球の命運を賭けた戦いに望まんとも限らんわけだ。」
「いや、そんなファンタジーな世界になることだけはないと信じてるから安心しろ。」
「そのとき私がここでこの一杯のミルクを飲んでおらず、それが原因で私の身体が丈夫にならずにその試合に負けてしまうことだってありうるのだ!そう考えれば、私がここでこの一杯のミルクを飲むことで世界がまた一つ救われるのだよ。」
どのような異次元世界であればそのような電撃11人のような展開になるのかはわからんが、
「詰まる所、この世界で無駄なことなど一つもないということでよろしいか?」
「むむぅ、まるで身も蓋も無い言い方で使い古されたフレーズに纏められるともっとこう言いたいこともあるが、だがしかし的を射た意見であることも間違いではなく…」
どうしてこの男はこうもわざわざ難解そうな言葉や言い回しを好むのだろうか。
そんなことを考えながら僕、二藤(にとう)はコーヒーにミルクを注いだのであった。
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