第1章

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 「うふふ、やだユーゴ。そんなこと悩んでいたの? お菓子食べるのにも困るでしょ、歯が痛かったり、無くなったりしたら」  お湯が沸いてココアを淹れながら笑いかけると、ユーゴがまた真剣な顔で呟く。  「吸血鬼は人間に恋をしてはいけない。血を吸えなくなるから・・・・・・」  いつもとは違う、真剣な声の思わぬ言葉に、ちょっとドキっとする。  砂糖をてんこもりに入れてあるココアを黙ってユーゴの前に差し出すと、ユーゴはふっと微笑みを見せて言った。  「・・・・・・じゃあ、元々血を吸わない吸血鬼なら、人間に恋をしてもいいのか?」  誰に問うわけでもない台詞を吐いて、ユーゴが私を見つめなおす。  そういえば・・・・・・ユーゴは冗談で血を吸いたいと言ったり、吸う仕草をするけれど、私はまだ一度も本当の危機感を抱いたことはない。  『血を吸わない吸血鬼』・・・・・・?  「ねえ、ユーゴ・・・・・・」  「あの・・・・・・」  ふいにユーゴが、笑顔を見せた。さっきとは違う柔らかい視線に私は顔が赤くなった。  「・・・・・・ユーゴ?」  ユーゴはココアを一口飲むと、さらに柔和な顔を見せた。  「美味しかった。ありがとう」  ユーゴがカップの縁にそっと指を乗せ、なぞる。  「・・・・・・それと、やっぱり私は、あなたが、好き、だ」  急にそんなことを言うので、私はまた顔が赤くなってしまった。  「・・・・・・あ、え、うん」  私はココアを飲みながらマグカップで照れた顔を隠した。  どうしちゃったのよ、今日のユーゴはなんだか変よ。  「ココアには、マシュマロを入れると、さらにおいしいと思う・・・・・・」  ユーゴが物欲しげに棚を眺める。  ・・・・・・!!  もう、ちょっと甘い雰囲気になったと思ったら、ユーゴは本当に『甘いもの』のことばっかり!  ユーゴのバカ!  「もう! ご飯食べたばっかりでココアも飲んでるのに調子に乗らないのっ!!」  「・・・・・・残念」  そう言いながらも、ユーゴの顔は笑顔のままだった。  ユーゴってほんとに何考えてるんだかわからない・・・・・・。でも、私の心はココアのせいだけじゃない、甘くて暖かい気持ちが少し残った。それと同時に・・・・・・私はユーゴが言った、『血を吸わない吸血鬼』の意味を考えていた。
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