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―考えてはいけない。でも、考えてしまうー
今振り返ると、考えられない場所に、孝道を睨む顔があるのではないのかと。
今視線を変えると、孝道を覗き込む視線があるのではないかと。
今動くと、猛烈な強さで縛り付けられ、全ての恐怖体験を味合わされるのではないかと。
この家の孝道のいるこの部屋が安全地帯だとは限らない。
押入れを開けると、そこには更なる恐怖があるかもしれない。
廊下を覗き込むと得体の知れないものがいるかもしれない。
孝道は時折、こういった精神の落とし穴に陥ることがある。
これに陥る切欠はあまりない。
だがやはり、テレビなどを見てその情報が視覚や聴覚から入り込むと、当然のごとくその底に落とされてしまうのだ。
ただの怖がりだとひと言で済ませる事もできるが、果たしてひとりきりの状態で虚勢を張らず平常心を保てる者はいるのだろうかと、孝道は思っている。
孝道は数学のテキストに顔を向けていたのだが、その瞳はうつろだ。
忙しなく、右手掴んだシャープペンシルを無意識に回すだけだ。
その動作を意識した途端、ペンが床に転がった。
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