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心の中で舌打ちをして、徐にペンを拾おうと思っただけで、身体は動いてなかった。
もし振り返り様に、妙なものがあったらどうしよう、崩れた顔がオレを睨んでいたらどうしよう、などとふと頭に過ぎった瞬間に、ペンに向かおうとした視線すら留めた。
ペン立てから別のペンを取ろうとしたが、視線を移すことを拒んだ。
孝道は動けなくなってしまった。
だが右足は無意識に、しかもかなり素早く動いている。
一般的には貧乏ゆすりと言う、一般的にいう悪癖だ。
きっと落ち着かないのだろう。
その膝の上下するスピードが一気に上がった。
当然その音が孝道の鼓膜を響かせた。
恐怖を堪えることに必死になっているようだ。
だが孝道はその音に多少の心の余裕を覚えた。
『孝道っ! 何やってるのっ! うるさいわよっ!!』
孝道は一瞬、身を竦めた。
孝道の母のかなりくぐもった声が聞こえ鼓動が早くなったが、恐怖心を打ち消し和らぎを感じ、ゆっくりとほぼ平常心を取り戻した。
孝道はなんでもなかったようにして落ち着き払い、何事もなかったようにペン立からシャープペンシルを抜き取った。
記憶にはっきりと残っている、落としたペンを拾うことは拒んだようだ。
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