2/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
 心の中で舌打ちをして、徐にペンを拾おうと思っただけで、身体は動いてなかった。    もし振り返り様に、妙なものがあったらどうしよう、崩れた顔がオレを睨んでいたらどうしよう、などとふと頭に過ぎった瞬間に、ペンに向かおうとした視線すら留めた。    ペン立てから別のペンを取ろうとしたが、視線を移すことを拒んだ。    孝道は動けなくなってしまった。    だが右足は無意識に、しかもかなり素早く動いている。    一般的には貧乏ゆすりと言う、一般的にいう悪癖だ。    きっと落ち着かないのだろう。    その膝の上下するスピードが一気に上がった。    当然その音が孝道の鼓膜を響かせた。    恐怖を堪えることに必死になっているようだ。    だが孝道はその音に多少の心の余裕を覚えた。 『孝道っ! 何やってるのっ! うるさいわよっ!!』  孝道は一瞬、身を竦めた。  孝道の母のかなりくぐもった声が聞こえ鼓動が早くなったが、恐怖心を打ち消し和らぎを感じ、ゆっくりとほぼ平常心を取り戻した。  孝道はなんでもなかったようにして落ち着き払い、何事もなかったようにペン立からシャープペンシルを抜き取った。    記憶にはっきりと残っている、落としたペンを拾うことは拒んだようだ。       
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!