第1章-2

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 何かあればって、ユーゴが死ぬってことよね?  それも、自分で自分の胸を刺して……。  そんな……そんなこと……。  混乱していた。  何をどうすればいいのかわからない。  冷静な声でユーゴに決断を促す智也君も……。  それを当たり前みたいに受け入れてしまったユーゴも、信じられない。  現実味がなかった。  私は、ふらふらと、まるで幽霊のような足取りで、キッチンに戻った。  もう1回薬缶を火にかけたけど、お茶の準備を続ける気にはなれなかった。  白い湯気を上げ続ける薬缶をただ見つめ続ける。  ユーゴが……死んでしまう……。  そのことしか頭になかった。  「どうしたの?」  ふいに背中の方で声がした。  「えっ? あっ、ユーゴ……」  ユーゴの手には、今日智也君が持ってきていた細長い箱がある。  私は、その箱から目が逸らせなかった。  この箱の中にナイフが入ってるんだ……。  「つらそうな顔してる」  ユーゴは、私の方に寄ってくると、昔みたいにふわりと抱き締めてくれた。  こんなふうにくったくなく抱き締めてくれるのは本当に久しぶりで、胸の奥がほんわかする。  でも、それは、私を襲いそうになったら、いつでも自分を止められる方法を手に入れたからなのかもしれない。  「ねえ、ユーゴ」  「ダメ、だな。こうやって、あなたを抱き締めていると……」  言いかけた私をさえぎったユーゴが、不意に私から離れ、腕を下した。  「ごめん……」  その手は、何かにおびえるように小刻みに震えていた。  「付き合う前は……あなたに触れたくて、あなたのことを抱き締めたくて、しかたなかった」  そうね……。私も、まとわりついてきたユーゴを何度叱ったか覚えていないくらいよ。  「あの頃に戻れたら。あなたが好きでたまらなくて、その笑顔に追いかけいた頃に戻れたら……いいのに」  「ユーゴ……」  「もう限界なのかな……」  すっと私から手を離して、ユーゴは悲しそうにうつむいていた。  「ねえ、ユーゴ。私なら血を吸われても、かまわないのよ」  震えてる手を取って、引き寄せながら自然にそう言っていた。  「それが愛する人を苦しみから救う唯一の方法だったら、私は迷うことなく選ぶよ」  「ダメだ」  ユーゴの手が私に触れた途端、震えが大きくなる。
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