0人が本棚に入れています
本棚に追加
その振動が伝わり、しっかりと握っているナイフの箱がカタコトとかすかな音を立てた。
「私のために犠牲になるなんて、ダメだ」
「……」
「あなたの血をもらって生き延びても、そこにあなたがいなかったら意味がない」
「ユーゴ」
「私は生き延びたいんじゃない。かなたさんと一緒にいたいんだ」
そう言うと、ユーゴは名残り惜しげに私から離れていった。
「ユーゴ……」
「でも、1つだけお願いしてもいいかな?」
足を止めたユーゴがゆっくりと振り返る。
「何?」
「いつか……きっと……あなたを襲ってしまう。でも、その時までは、一緒にいてもいいかな?」
「当たり前じゃない……」
「よかった」
そう言うと、ユーゴは本当に嬉しそうに笑った。
この世にこれほど嬉しいことはないといわんばかりの最高の笑顔。
その笑顔に、私は思わず涙があふれてきそうだった。
だから、聞けなかった。
あなたの手に持っている箱は、本当にナイフなの?
そして、いつかその日が来たら、本当にそれを使うの、とーー
冬の頼りない日差しが、ゆらゆらとリビングに差し込んでいた。
その日差しを浴びて、ユーゴがソファで眠っている。
このところ、夜はあまり眠れていないみたい。
「ちょっとやつれたみたいね……」
こうやって眠っていても、疲れてるのがわかる。
青白くって、苦しそうに眉を寄せていて、心地よさそうにはとても見えない寝顔だった。
「うっ……嫌だっ! そんなことしたくないっ! したくないんだっ!!」
唐突に、ユーゴは叫び声を上げた。
「ユーゴ? 大丈夫?」
慌てて膝をついて顔を覗き込んでも、ユーゴは目を閉じたままだった。
眉を寄せて、苦しそうに身悶えている。
「悪い夢を見てるんだ。起こしてあげた方がいいかも」
「うぅっ……くっ……い、やだ……嫌だっ!」
「ユーゴ! 起きて! ユーゴ、それは夢よ。起きて」
ゆさゆさと乱暴に揺すりながら、耳元で大声を上げる。
すぐにユーゴは目を開いて起き上がった。
じっと私を見つめている。
「起きた?」
そう言って声をかけた瞬間、痛いほどに私の肩をつかんだユーゴが、そのまま私の首筋に唇を寄せる。
「っ!!」
首筋に鋭い痛みが走った。
ドクンと心臓がはねる。
「ユーゴ、やめてっ!!」
最初のコメントを投稿しよう!