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私の首に噛み付いているユーゴを力いっぱい押しのける。
でも、肩をがっちりつかまれていて、びくともしなかった。
「う……い……痛い……!」
すごい力……肩の骨が砕けそう……。
「ユーゴ……やめて、お願い……やめて……」
あまりの痛さに声がかすれる。
私はとっさに服の下からペンダントをひっぱり出した。
それがユーゴに触れると、バリバリと久しぶりに聞く音が聞こえてくる。
「くっ!!」
ユーゴは私から飛びのいて、呆然とこちらを見つめてきた。
「ユーゴ、わかる?」
「あっ……」
はっと我に返ったユーゴが、私の首筋を見つめている。
そこにはぬるっと生温かい感触があったから、少しだけ血が出ているのかもしれない。
「平気よ」
私は慌てて首筋に手をやって、ユーゴに噛まれた辺りを押さえた。
「……とうとう……やってしまった……」
ドン……
ユーゴはフラフラと後退って、壁にぶつかった。
その拍子に、どこからか、智也君が渡した銀のナイフが入っている箱が滑り落ちてきた。
包みを失ったその箱は、落ちた弾みで自然に蓋が開く。
美しいほどに冷たく輝くナイフが、リビングの床に転がって、澄んだ音を立てた。
「あっ……」
「お願いだ。もし、次にあなたを襲ったら……そのナイフであなたが私に決着をつけてくれないか?」
「どうして……そんな意地悪なこと言うの? 無理に決まってるじゃない」
「意地悪じゃない。これはかなたさんにしかできないこと。……かなたさんにだけにしてもらいたいから」
「ダメよ、無理……」
「お願い……お願いだから……」
ユーゴは泣きそうな顔をしていた。
多分、私も同じような顔をしている。
「できない……できないよ……」
そんなことできないよ。
「お願い、私は……もう、自分で……自分を、抑えられない……」
「嫌だ、嫌よ……ユーゴが……いなくなるなんて……絶対嫌よ……」
ポトン、ポトンと2人分の涙が、銀のナイフに滴り落ちる。
私は、その冷たい輝きから逃げるように部屋を飛び出した。
時間は淡々と流れていく。
ユーゴが私の血を吸おうとしたことなんて、悪い夢だったみたい。
でも、あれからユーゴは私を避けるように部屋に引きこもったまま。
とうとうご飯の時も部屋から降りてこなくなった。
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