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『一夜ちょっといいか』
{あれ? 今日は、一ノ瀬先輩だけですか?}
{ごめんね? 伊吹に急に依頼が入って…}
{…先輩。気にしないで下さい。そもそも、自分が社長に頼まれた事ですから}
零は、社長から一週間前隣町に新しくオープンした執事カフェに自分の代わりに行ってきて欲しいと頼まれた。
その情報をどこで入手したのか自分達も一緒に行きたいと行ってきた。
最初は、いつものごとく女装して行かないと行けなかったので断ったが、余りにもしつこくお願いしてくるので、渋々同意した。
{だから…一緒に…}
『無視するな!』
一方、聴こえてるはずなのに、無視された音風が、自分に視線を向けさせるために、零の机を思いっきり叩く。
{…零君?}
インカム越しに、一ノ瀬が心配そうに尋ねてくる。
{…一ノ瀬先輩。やっぱり、先輩は、一緒に行くべきじゃあないですよ?}
{零君!}
零の名前を呼ぶ。
{…先輩は、知っていると思いますけど、恥ずかしいんですよね? 人前で仕事とはいえ女装するの} 零は、インカム越しに女装に対する正直な想いを伝える。
けれど…そんな零の想いを砕くように一ノ瀬が大きな爆弾を落とす。
{…僕は、君の女装可愛いくて好きだけど。何で恥ずかしがるの? 別に、恥ずかしがる事ないと思うけど}
{…}
一ノ瀬先輩は、こんな男だ。
でも、そんな彼を自分は、あの異様な人間関係の中で一番信用している。
{…なんで、君が女装を嫌がるか僕には解らないけど、それは、君にしかできない、君だけの特技だよ? これは、僕達は、どんなに頑張ってもできない。だって…僕は、まだしも、伊吹や斗真、ましてや野口さんや社長がいま、女装なんかしたら確実に捕まる。だから、零君。君の女装は…}
{…}
一ノ瀬が言いたい事も痛いほど解る。
でも…
{…零君。僕は、どんな君でも君だと思っているよ? だから…}
{先輩…ありがとうございます。でも、今回だけは、一人で行かせてください}
インカム越しに頭を下げる。勿論頭は下げていない。
{…解った。でも、一つだけ約束してくれないかな? いやぁ? 条件があります}
一之瀬は、あっさり認める。
しかし、条件を一つ付ける。
{条件?}
一ノ瀬にできる事なら借りを作りたくない…でも…
{零君。今週末僕とデートしない?}
{…}
条件として突きつけられた「デート」という単語に零は、言葉を失う。
{…たまには、羽目を外していいんじゃあない?}
{!?}
もしかして…先輩は全てを分ったうえで、デートって…
{じゃあ…零君。僕は、伊吹の手伝いに行ってくるから、零くんもお使い頑張ってね?}
_プチ_ 一ノ瀬のインカムの通話が切れる。
(ありがとうございます)
一ノ瀬の心遣いに感謝しながら、零は、目の前に居る音風に視線を戻す。
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