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開始する start
「お待たせしました!」
染島隼人との電話を終えた翔吾が零と朧に、写真に写るビルの場所について説明した。
「人材派遣会社? ですか?」
「はい! でも…」
なにが言いたげそうに言葉を切り上げる翔吾に、零が声を掛ける。
「どうかしましたか?」
「それが…そんな名前の人材派遣会社どこにも載ってないんです。いま、スマホで検索かけてみたんですけど」
スマホの検索画面を見せる。
「本当ですね? でも、自分は紅は存在すると思いますよ?」
「えっ?」
驚く事もなく、逆に紅は存在すると言い切った零に、翔吾は驚きを隠せない。
だって、ネット情報が載ってないんですよ!
「では、逆にお聞きしますけど、ネットに情報が載ってないとその会社は存在しないんですか?」
「そッそそそれは…します」
零の問いかけに翔吾はしないとは言い返せなかった。
理由は、自分の家の近所の店がまさにそのタイプの店だったからだ。
「ですよね? それに僕ら Black Bart がまさにそのタイプなので。まぁ?そうじゃあなくても僕らは裏社会、それも裏社会の住人専門の捜し物探偵事務所なので、ネットどころか表社会に、広告どころか情報すら一切公開していなんですけどねぇ? はぁはぁはぁ」
笑いながら、返事を返す零に翔吾はなんだかもう訳ない気持ちになる。
きっと、この人は、自分が思う以上に辛い目に遭っているのかもしれない。
でも、それを表立って口に出す事ができないかもしれない。
「…ごめんなさい」
「なにがですか?」
「いえ。あの? この人材派遣会社に本当に二人がいるんでしょうか?」
「いると思いますよ! 現に貴方のご友人はその姿を目撃しているんですから」
「そうですね? あいつが目撃しているんですから! 二人は働いてますよね! ここで!」
「その意気ですよ! それに、僕らには凄腕情報屋がついてますから大丈夫ですよ!」
「じょじょ情報屋!」
突然飛び出した情報屋と言う言葉に翔吾は一瞬言葉がおかしくなる。
「えぇ。僕らの先輩に野口一ていう情報収集にとっても優れた先輩にいるんです。その先輩に掛かれば一時間以内にもっと言えば、捜している人物の名前もしくは写真さえあれば、その人物の全ての個人情報が彼の元に集まってくるんです」
「すす凄いですね? でも、なんだか恐ろしい能力でもありますね!」
翔吾は、口ではすごいと返事を返しながら、心の中では内心ドキドキが止まらない。
だって、今の話が本当なら、零は翔吾の秘密を知っている。
それどころか知っていながら、自分を試すようなことを言っている事になる。
「ですよねぇ? だから、自分、この先輩の事あんまり好きじゃあないんです。あぁすみません。話がなんだかずれちゃいましたね?」
「いいえ?」
「じゃあ、そろそろ行きましょうか?」
★
12時30分 人材派遣会社紅 近くの駐車場。
鈴蘭水族館から車で30分掛けて隣町のなでしこにやってきた三人は、「紅」近くのコインパークに車を止めた。
すると、翔吾が運転席に座る朧に尋ねた。
「あの? 蜩さん」
「朧でいいですよ。さっきも言いましたけど、なんなら框様が年上なんですから」
「それはそうなんですけど、やっぱりお二人に仕事を依頼する立場なので」
朧から2度目の提案も、翔吾は理由をつけてやんわり断る。
けど実際は二人の…いやぁとくに零が醸し出す独特の雰囲気に翔吾は命の危険を感じてしまった。
勿論、それを口に出す事はできない。何故ならいま自分の前に居るのは、裏社会の人間なのだ。
だからこそできるだけ彼ら、いやぁ一夜零の機嫌を損なわない様に、低姿勢を貫こうと心に誓った。
「そうですか? 私達はそんなこと全く気にしませんけど」
朧は、翔吾からの答えに不思議そうに首を傾げる。
朧の中じゃあ、翔吾が一番年上なので敬語ではなく、普通の言葉で話してくれた方が楽。
「蜩さん達はそうかもしれませんけど、自分はあくまで依頼人であってそれ以上でもそれ以下でもないので」
翔吾だってできる事なら、敬語ではなくできるならため口で話したい。
けど…相手が相手なのでそうもいかない。
翔吾だって死にたくはないのだ。
それに…彼らの上司で、今回の天童穂積捜しの依頼を引き受けたくれた「blackBart」の社長でもある黒鳥恭輔さんからの言葉も翔吾が彼らいやぁ…零にため口を使えない要因の一つだ。
※黒鳥恭輔が翔吾に言った言葉。
『翔吾君。年齢だけみたら、明らかに君の方が二人よりも年上だ。零なんか君から見たらまだまだ子供だし。でも、精神年齢だけみたら零は、blackBart にどの探偵よりも一番方が高い。だけど、同時に誰かが傍に…あぁごめんね? 今から依頼探偵を決めようって時にこんな話されても君が困るよね?」
黒鳥恭輔さんは、決して悪気はなく、自分の子供を心配する親ような感じで言ったと思うのだか、二人ではなく零だけを特別扱いする黒鳥の態度に違和感を覚えながらも「いえ」とだけ返事を返した。
★
「朧! 框様の言う通りだ。俺達はあくまで依頼人と探偵。それ以上でもそれ以下でもない」
朧と翔吾の会話は、助手席でスマホを操作しながら訊いていた零が、スマホを置き、会話に割って入ってくる。
「…」
図星を突かれ朧は言葉を失う。
「框様すみません。朧は、先月、先輩補佐から正探偵に昇格したばっかりで、依頼人との距離感がまだ上手く掴めてないんです」
朧の代わりに彼の失敗を詫びる零に翔吾は慌てて…
「零さん! 頭を上げて下さい! 自分なら全然大丈夫ですから! そんな事よりも…」
こんな事をしている場合じゃあ。
早く所穂積を見つけ出して…ゆかりを…
「そうですねぇ? 時間もありませんしそろそろ行きましょうか? あぁそうだ! 框様、よかったらこれどうぞ!」
零は、ジャケットの内ポケットからおもちゃの拳銃を取り出しを翔吾に差し出す。勿論、おもちゃなので中身は銃弾ではなく水鉄砲。
でも、見た目は本物拳銃と瓜二つ。
「あぁぁあの? 一夜さん! これは?」
零から受け取ったおもちゃの拳銃に翔吾は戸惑う。
「拳銃ですけど? あぁ大丈夫ですよ! 中身は水鉄砲ですから!」
「水鉄砲?」
「はい! なので誰かを傷つける事も殺す事もありません。その拳銃はあくまで護身用で持っていて下さい。ここから先なにがあるか分かりませんから。まぁ? 貴方の事はそこにいる馬鹿が全力護衛しますから安心してください! なぁ朧?」
零の言葉にふて腐れている朧の頭を軽く突きながら同意を求める。
「あぁぁぁ任せて下さい! 貴方の事は命に代えても守ります」
急に頭を叩かれた朧は驚きながらも、零の真意を読み取り、翔吾の手を取り絶対護ると彼に改めて誓った。
「朧もこう言ってますので安心して我々に任せて下さい」
(まぁ…その前に彼に殺されると思いますけど)
口に出している言葉と心の中の本心は全く違う。
「はい! よろしくお願いします」
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