コットン

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「とりあえず、今は泣きな」  そして、大きな手でもって、それをふんわりと上から押さえた。 「泣いて、泣いて、身体中の水分がなくなるまで思いきり泣いて、泣くことに飽きたなら」 「……飽きたなら?」  わたしは先をうながす。  進藤は、オーケストラの前に立ち、今まさに演奏をはじめる指揮者のように、大きく息を吸って、吐いて。 「その時に、もし、雛子がいいんであれば、一緒にAKIのライブに行こう」  わたしはまた涙を流した。  でもそれは、さっきまでのものとは少しだけ温度が違っていた。  水分はすべて、やわらかく、温かい、ほんのちょっと消毒臭いコットンに吸い込まれていった。  願わくは、どうか本当に、オーナーが今日の防犯カメラの記録を観ることがありませんように。  切に、思う。 (fin)
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