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なぜだろう。
胸が、じんわりと温かくなった。
進藤が褒めたのは彼のことなのに、まるで自分が認められたような気分になる。
「だからさ、好きでいればいいじゃない」
いつのまにか進藤がつむじの先に立っていた。
「もったいないじゃない。いいとこいっぱい覚えてきたのに。結婚しちゃったからって、好きになった歌も本人も何も変わらないんだから」
くいっと顎を突き上げると、若干クタクタになった青いストライプの制服と、根元だけが黒くなった茶色い髪に、フレームのないメガネをかけた、進藤の仏頂面が見えた。
「違う?」
その時、わたしの目には、そのいつも通りの無愛想な顔が、なんだかとても神々しく映って、思わずまばたきを忘れた。
すとん、とツキモノが落ちたような感覚がした。
進藤は、売り場から拝借してきたらしい、透明な袋の封を開ける。
簡易救急医療セットだった。
絆創膏やら、綿棒やら、包帯やら、応急処置用の止血道具が入っている。
その中から、手のひらサイズにカットされた脱脂綿を取り出し、わたしの両目の上にかぶせた。
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