コットン

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「あ~あ。バイト辞めようかな」  消化しきれない悲しみとともに吐き出したセリフは、語尾にビブラートがかかった。  もともと、彼が夜型だと知ってはじめた仕事だった。  彼は深夜から朝方にかけて曲をつくったり、ブログを更新することが多く、昼間はもっぱら寝ているらしいので、ちょうどバイトから帰ってきたくらいだと、彼とリアルタイムで会話ができたのだ。  だけど、もう他人の所有物となってしまった今では、同じ時間帯に活動していることすらむなしい。  その発言に、「え」と進藤が予想外の反応を見せた。  一切の物音がやんだ。  衣擦れの音すらしない。  しばらくして、 「バカらしいじゃないか、そんなの」  と返事が返ってきた。 「バカらしいかな」  ぼんやりとしながら応える。 「失恋して生活パターンを変えるなんて、バカらしいの極みだよ。そこまで相手に振り回されて、悔しくないの」
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