コットン

8/11
前へ
/11ページ
次へ
 やめちゃえばいいのに、と言い放った時、それがぜんぜん別の言葉として耳に飛び込んできて。  ギクリとした。  別れちゃえばいいのに。  鼓膜には、そう反響した。  彼と奥さんが別れちゃえばいいのに。  自分はどんな時でも正しい人間でいたくて、誰かの不幸なんて願わない人間でいたくて、醜い自分は心の奥底に押し込めて見ないようにしていたのに、それをうっかりスコップで掘り返してしまった気がして。  わたしはわたしにガッカリして。  またするすると涙を流した。  夜も深い時間のコンビニは、とにかく静かで。  お客さんなんて、ほとんど来ないから。  わたしは、思いの丈を、これでもかと唯一の相方にぶつけることをやめようがない。  進藤は、対応こそ冷たいけど、そんなつまらない話するなとは、なぜかけして言わないから、わたしの愚痴はますますエスカレートする。  いつも、そうだ。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加