コットン

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「なんでわざわざ公表なんかしたのかなぁ。何も知らないほうが、ファンとしては幸せなのに」  わたしはまた湿っぽいため息を浮かべた。  そしたら、こんなふうに自分に幻滅することだってなかったのに。 「黙っていることに耐えられなくなったんじゃないの。恋人と一緒に暮らしてたんでしょ? そういうの、ファンを騙してる気になったんじゃない? 平気でそういうことできるような人じゃないだろうし」 「意外だね」  と、ほんの少し頭を傾ける。  目の端にでも進藤の姿が入らないかと期待したけど、死角にいるのか、確認できない。 「彼を擁護するような意見が出るとは思わなかった。ていうか、彼のこと、そんなに詳しかったっけ?」  すると、売り場の奥のほうから、咳払いが聴こえてきた。 「誰かさんがいつも、AKI、AKIってうるさいからね。一度ネットで調べてみた」 「へぇ」  それから、たっぷりと間を置いたあとで、 「……けっこういいじゃん。歌も、人間性も」
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