第1章 どこにいても

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 人口八千人程の小さな町に、総合病院はひとつのみ。お母さんと晴馬の姉・えっちゃんはその町営病院で看護師をしている先輩と後輩の仲である。えっちゃんは旦那さんと二人暮らしをしていて、子供はいない。自分達の小さい頃の写真やアルバムがないのは火事のせいだと教えて貰ったことがあった。  私と出会う一か月半前に、晴馬は両親を一度に失っていたと知ったのはつい最近だ。子供扱いされて、大事なこと程すぐには教えて貰えないなんて、酷い。  まあ、でも。確かに酷な話題だし、燃え盛る炎が迫る寸でのところで晴馬は自力で脱出して一命をとりとめたらしいから、あの頃はまだ他人に話せるまで心が落ち着いてなかったのかもしれないよね。だって、助かったのは自分だけで一度に両親を失ったんだもの。  あの、苦しいほどの抱擁の裏には壮絶な苦しみがあったのかと思うと、今更ながら胸が痛む。いつどんなところで人生が終わるか、誰にもわからない。
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