第1章 どこにいても

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 一日いちにちを生きていると、代わり映えのしない退屈な風景画を眺めていても、気付けばちゃんと季節は変わっていて、晴馬にとっては厳しい季節が来る。私と出会う少し前、十一月の中旬に彼の両親の命日が来る。来年は晴馬の亡くなった両親の七回忌があるから、もしかすると帰省するかもしれないなんて話を聞いたら、否応なしに期待してしまう。  前回の三回忌には帰らなかったけど、七回忌なら帰ってくるんじゃないか?  お母さんは私を慰めるように、そんなことを言った。初めて聞いた時は不謹慎だけど嬉しかった。でも、わからないよ。私の知っている晴馬は、いつだってどこか掴みどころのない人だもの。自分の胸の内を誰にも見せようともしない、頑なで透明な殻があった。自分を守っていると同時に誰からも理解されないという孤独を抱え込む殻を、私と同質の殻を、晴馬は持っていた。その証拠に私が把握する限り、高校二年生から三年生の彼には親友の存在を一人として感じたことはなかった。元々、友達を作らないタイプらしいことはえっちゃんから聞いている。私も人のこと言えない性格だから、だからこそ私達は周囲が驚くほど気が合ったのかもしれない。  東京でもきっと変わらず晴馬は孤独の中にいる気がする。  自分で本気で帰ろうと思うまで彼はきっと帰らないと、私は確信していた。
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