第1章 どこにいても

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 五年前、晴馬がどんなつもりで私を置き去りにしたのか、考えたってしょうがないから普段は忘れることに決めていた。  読書をしている最中は物語の世界に浸っていられるけど、夢から醒めて一人の時間を持て余すと、決意とは裏腹によく彼のことを思い出す……。  心はルールを決めても、思った通りにはならなくて困る。  東京の美大を今年、無事に卒業したという話だけは届いた。晴馬はそのまま東京都内の設計事務所に就職を決めたらしいことも。  お母さんの同僚が晴馬のお姉さんで、数年に一度連絡が取れるかどうかの頻度でしか弟の様子がわからないと嘆いていた。  私は母と二人きりの親子。  彼も姉と二きりの家族。  生きるためには仕事をして生活の糧を得るため、 一緒に過ごす時間を犠牲にしてきたと言っても良い。  私は親に甘えることを知らない子供だったと思う。晴馬もお姉さんに甘えられない弟だったのだろう。
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