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「アル。お母様が言っていたお客様って誰?」
順番を待つ馬車の中、ニコルは向かいに座るアルベールに尋ねた。
馬車の窓から見える空は雲一つない快晴。
降り注ぐ日差しに石畳の白さが映え、河の水面がキラキラと輝いていた。
「ルイフィス伯爵様です」
「……近衛大尉殿か」
ハァ、とニコルは溜息を禁じ得なかった。
学院卒業時に成績優等な者には、近衛連隊への入隊が認められる。
高等部卒業後には様々な進路が用意されているが、国王の身辺に寄り添う近衛連隊への道が最も栄光への道であり、全ての貴族の憧れであると言われている。
というのは国王の傍近くで働くことで目をかけられれば、将来は国政を担うことが出来る可能性があった。
実際、歴代の大臣の大半がこの近衛連隊出身者で占められている。
ニコルにレティツィアがそういう道を望む気持ちは分かるし、そのために伝手を頼っては近衛連隊の人間との交流を増やそうとする親心も十二分に理解できる。
ニコル自身も母の期待に応えたい想いはありながらも、そんな過酷な世界で自分が全うできるかは不安だった。
ニコルは今年の春で高等部二年に進級したばかり。
あと二年少しで学生生活と別れを告げ、正式に当主としての道を歩まなければならなくなる。
くすっとアルベールが笑う。
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