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建物の多くは創建当時からのものであり、赤煉瓦で統一されている。
長年風雨に曝(さら)されてくすんだ煉瓦’(れんが)の壁には蔦が這う。
学院の大きな敷地内には象徴でもある時計塔が中央に、南側に高等部の校舎が、東側に初等部、中等部――それぞれの区画は大まかにではあるものの壁で区切られていた。
各施設がどこに所属しているかは建物の尖塔に設けられている旗の種類で判別できる。
高等部は、赤地に獅子の紋章だ。
ニコルは校舎へと真っ直ぐ向かう列から離れ、道を逸(そ)れた。
まだ朝の礼拝までには時間がある。
右手に馬場を眺めながら向かったのは、木製の骨組みにガラスをはめ込んだ温室の植物園だ。
ニコルは園芸部に所属していたのだった。
これは高等部としてはとても珍しいことだった。
当然だが、高等部に進級するともなれば将来を見据えた生活を送る生徒がほとんどだ。
部活をするにしても乗馬であったり、剣術であったりと実用的なものを洗濯するものが普通だ。
「イン爺(じい)、おはよう」
「ああ、これはニコル様。おはようございます」
年の頃は六十を過ぎているであろう大柄で、灰色の口髭、顎髭を蓄えたクマのような老人が恭(うやうや)しくこうべを垂れた。
学院の種々の細々としたものを処理する管理人の一人だ。
インロウスと言うが、学院の生徒たちはイン爺と愛称で呼ぶ。
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