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屋敷よりもずっと広々としたそこには希少な薬草や草花も育てられている。
ニコルが薬草に興味があったのは自分が学校に通うことが出来ないほど病弱であったことが一因だった。
少し身体を動かすと熱が出た。そのたびに薬草を煎じて飲まされた。
ニコルには不思議で不思議でしょうがなかった。
どうしてそこら辺に生えているようにしか見えない草を煎じた程度で、自分の体調が良くなったりするのか。
寝ている間、図鑑に目を通したりして過ごす内に、薬草だけではなく、植物そのものに興味が湧くようになった。
他にも温室があってそこで薔薇が育てられていた。
学院内にある薔薇は四季咲き木立で、学院の様々なイベントの際に重宝される。
入学式、卒業式、また運動部の対抗戦などで生徒の胸元を飾るのだ。
「おはよう、みんな」
甘い香りをかぎながら、ニコルは独りごち、手袋をして水を丁寧に撒く。
薔薇はまだ花を咲かせていないものの、中には今にもほころびそうな大きな蕾をつけているものがある。
豪奢な紅に、清純な白、目にも綾(あや)な黄色……。
来月には様々な色合いの花が咲き乱れることになり、匂いも一層、増す。
ニコルは温室の奥に向かう。
その一画に、それはあった。
赤と黒のムラのある、お世辞にも美しいとは言えない薔薇。その鉢が幾つかある。
蕾すらつけていないものもぽつぽつとある。
その鉢植(はちう)えの薔薇はいわゆる黒薔薇だったが、蕾(つぼみ)を付けているものはどれも他の色が混ざって理想からはほど遠い。
これらの薔薇たちはニコルにとって特別なものだ。
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