第一章 アルベール(2)

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 ニコルが中等部の頃から、イン爺の力を借りながら交配を続けているものだ。  目指すは一年を通して、混じりっけのない漆黒の薔薇を生み出すこと。  しかしまだ一度もうまくいったことはない。  それがニコルにとって密かな目標になっていた。  早く完成された黒を見たい……そう思いながら毎日毎日足を運ぶこともまた楽しみの一つだった。  病気になっていないかを葉の形を見ながら確かめる。  病気になっていれば、葉っぱが波打たり、変色したりする。 (大丈夫みたいだ)  ほっと胸を撫で下ろした。 「ニコル様。そろそろ校舎に向かわれたほうがよろしいかと。遅刻してしまいますよ。あとは私めがやっておきますので」 「ありがと。後はお願いねっ」  つい手入れをしていると時間を忘れてしまう。  慌てて温室を後にした。
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