63人が本棚に入れています
本棚に追加
誰かの泣き声が聞こえてくる。
ここがどこなのかは分からない。
ニコル・フォン・コルデリアは暗い室内に立っていた。
黴(かび)臭く、湿った空気が漂う。
蝋燭一本ない闇の中で、子どもが一人、膝を抱えてうずくまっていた。
かすかに引き連れた声を漏らし、震えていた。
その子ども以外、人の気配はない。
「助けて、助けて……」
涙に掠(かす)れた声で子どもが呟く。
しかしその力のない言葉は濃密な闇に吸い込まれ、たちまちかき消えてしまう。
目の前の子どもが顔をもたげる。
「助けて……」
涙と鼻水でぐぢゅぐぢゅになったその顔は――。
それを見る前にニコルの意識は遠のいてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!