序章 夢

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 誰かの泣き声が聞こえてくる。  ここがどこなのかは分からない。  ニコル・フォン・コルデリアは暗い室内に立っていた。  黴(かび)臭く、湿った空気が漂う。  蝋燭一本ない闇の中で、子どもが一人、膝を抱えてうずくまっていた。  かすかに引き連れた声を漏らし、震えていた。  その子ども以外、人の気配はない。 「助けて、助けて……」  涙に掠(かす)れた声で子どもが呟く。  しかしその力のない言葉は濃密な闇に吸い込まれ、たちまちかき消えてしまう。  目の前の子どもが顔をもたげる。 「助けて……」  涙と鼻水でぐぢゅぐぢゅになったその顔は――。  それを見る前にニコルの意識は遠のいてしまう。
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