第一章 アルベール(1)

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「……っ!」  ニコルが飛び起きると周囲を見回した。  そこは夢の世界とは違う。  眠る前と同じ、整然とした寝室そのまま。  カーテンの開けられた窓からは、四月の薄絹(うすぎぬ)のようになめらかな日差しが注ぐ。  窓の向こうに見えている大きく伸びた枝先に、橙色をした綺麗な小鳥が囀っていた。  全身がじっとりと嫌な汗で濡れていた。  肩を大きく上下させ、喘ぐ。  もう夢の世界とは違うと分かっていても、鼓動は早鐘を打ち続けていた。  ニコルの美しい金色の髪は汗で湿り、宝石に例えられる青い瞳は潤んでいる。 (また、あの夢だ)  顔を手で覆う。  たとえ夢の世界だと分かっていても、身体にこびりついている不快感はなかったことにはならない。  その時、ノックの音がして、ニコルはびくっと反応する。 「……は、はい……っ」  掠れた声を漏らす。 「アルベールでございます。ニコル様」  聞こえてきたのは芯のしっかりとした声。それでいて乱暴ではない、落ち着いた声が胸に温 かく染みる。 「入って」  ニコルは救いを求めるように応えた。 「失礼いたします」  扉が開き、長身痩躯の男性が入ってくる。 「おはようございます」 「おはよう、アル」  男は今日も皺一つ無い黒いスーツ姿を見事に着こなし、綺麗に歩く。
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