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「……っ!」
ニコルが飛び起きると周囲を見回した。
そこは夢の世界とは違う。
眠る前と同じ、整然とした寝室そのまま。
カーテンの開けられた窓からは、四月の薄絹(うすぎぬ)のようになめらかな日差しが注ぐ。
窓の向こうに見えている大きく伸びた枝先に、橙色をした綺麗な小鳥が囀っていた。
全身がじっとりと嫌な汗で濡れていた。
肩を大きく上下させ、喘ぐ。
もう夢の世界とは違うと分かっていても、鼓動は早鐘を打ち続けていた。
ニコルの美しい金色の髪は汗で湿り、宝石に例えられる青い瞳は潤んでいる。
(また、あの夢だ)
顔を手で覆う。
たとえ夢の世界だと分かっていても、身体にこびりついている不快感はなかったことにはならない。
その時、ノックの音がして、ニコルはびくっと反応する。
「……は、はい……っ」
掠れた声を漏らす。
「アルベールでございます。ニコル様」
聞こえてきたのは芯のしっかりとした声。それでいて乱暴ではない、落ち着いた声が胸に温
かく染みる。
「入って」
ニコルは救いを求めるように応えた。
「失礼いたします」
扉が開き、長身痩躯の男性が入ってくる。
「おはようございます」
「おはよう、アル」
男は今日も皺一つ無い黒いスーツ姿を見事に着こなし、綺麗に歩く。
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